スルガショック・かぼちゃの馬車事件と呼ばれた巨大不正融資事件は記憶に新しいところです。
事件の内容もその解決方法も前代未聞のもので、当時大きな注目を集めました。
今回はスルガショック・かぼちゃの馬車事件を改めて俯瞰し、不動産投資家として成功するための大切な考え方を探ってみましょう。
かぼちゃの馬車事件のカラクリ
「かぼちゃの馬車」とは、スマートデイズ社がかつて運営していた女性専用シェアハウスの名称です。
地方から都市部に引っ越して成功する若い女性をシンデレラになぞらえてつけられたブランド名ですが、その賃貸事業計画はかなりずさんなものでした。
なぜそんなずさんな事業計画がまかり通ったのか、かぼちゃの馬車事件の全容を振り返りましょう。
相場に合わない高すぎる物件価格
かぼちゃの馬車の中心価格帯は1億円から1億3000万円前後といわれています。
一室の広さは8㎡前後とかなりコンパクトです。
共用部分にはキッチン、シャワールーム、トイレ、洗濯機があるだけで、入居者同士でくつろげるようなシェアスペースやワークスペースはありません。
もともと物件自体が小型のため、問題発覚後には物件自体の価値は6000万円程度しかないことが判明しました。
しかし、スマートデイズは建設会社と結託して物件価格にかなりの利益を上乗せして顧客に販売し、建設会社から20%という法外なキックバックを受け取っていたのです。
土地についてはスマートデイズの仕入れですが、これもかなりの利益を上乗せしており、購入者に物件を高値掴みさせていたということです。
ずさんな事業計画とサブリースの罠
この価格では不動産投資のプロであれば事業計画になにか問題があることに気づくものですが、投資家のほとんどは不動産投資に慣れていない個人のサラリーマン投資家でした。物件や賃料の相場を慎重に検討することなく、営業担当者の「サブリースによる30年間の賃料保証・利回り8%」を信用して物件の購入に踏み切ったのです。
実際のスマートデイズの運営は、建設資金のキックバック収入をサブリース賃料に充てるという自転車操業でした。
当初よりこのような賃貸経営が成り立つわけはなく、同業他社が破綻し、スルガ銀行が同様の融資を停止したところでスマートデイズのサブリース賃料の支払いも滞ってしまったのです。
スルガ銀行の甘い融資審査と審査資料の改ざん
さらにこの事件を悪質なものとしたのは、スルガ銀行の不正融資です。
スマートデイズの担当者は、購入時の頭金は不要と説明し、さらに登記費用や不動産取得税などの諸費用についても無担保でローンを付けるなど、かなり審査基準の甘い融資であったことがうかがわれます。
融資金利は3.5~4.5%と高く、無担保ローンは7%です。
審査基準がずさんであったことも問題ですが、スマートデイズ破綻後にスルガ銀行の融資担当者が顧客の銀行預金残高を改ざんしていたという衝撃の事実が明るみにでます。
実際には、スルガ行員の録音データが記者クラブで公表されたことが決定打となり、社会問題に発展していきました。
だまされた被害者たちのその後
だまされた被害者は少なくとも960人以上、物件数は1200棟以上、ローン総額は1500億円以上(有担保・無担保含む)に上りました。
被害者たちはスマートデイズ破綻からほどなくしてSS被害者連盟を結成し、弁護団を通じてスルガ銀行と調停を重ねます。
結果として2022年4月、被害者弁護団は他に例を見ない全面的解決を勝ち取るのです。
被害者たちへの世間の評価の変化
スマートデイズが破綻した当初、購入者は投資に失敗しただけで、解決については自己責任という風潮がありました。
投資の失敗に苛まれて自殺する人や心身が不安定になって休職する購入者が少なからずあらわれ、大きな社会問題になったのです。
しかし、スルガ銀行の不正融資が明らかとなった以降、スルガ銀行、スマートデイズおよびその関連企業の悪質な行為が大きく報道された結果、購入者は逆に被害者だというように評価が変わったのです。
スルガ問題の解決のために弁護団が立ち上がり、国会においても問題の所在について様々な議論がなされました。
融資総額約1500億円の調停スキーム
スルガ問題は今までは考えられないようなスキームによって解決されました。
一人の購入者が1億3000万円の融資を受けているというモデルを考えると、以下のような解決スキームが提示されたのです。
まず、スルガ銀行は購入者に対して7,000万円の解決金を支払い、融資と相殺します。
残りの6,000万円の融資は第三者に債権譲渡を行います。
第三者は購入者に6,000万円の債権があることになりますが、購入者は物件を第三者に代物弁済することで債権を完済しました。
結果的に物件の所有権は第三者に移転したかわりに、購入者の債務はなくなったのです。
このスキームにスルガ銀行と調停を申し立てた被害者全員が合意し、スルガ問題は収束に向かいました。
スルガショック後の銀行の融資姿勢の変化
スルガショック後、金融庁はスルガ銀行に対して半年間の投資用不動産を担保とする新規融資を停止することを含む行政処分を行いました。
あわせて、金融庁は全国の金融機関に融資姿勢や審査の適正性、融資案件の紹介者の業務の適正性についてのアンケートを公表し、顧客保護やリスク管理のあり方の適切性について問題意識を表明しました。このことは特に地銀や信金・信組の不動産融資の姿勢に少なからず影響を及ぼしています。
ローン審査の厳格化
スルガショック後、個人投資家向けの不動産融資審査が厳しくなり、特に新規顧客に対する投資用不動産融資はほとんど受け付けられない状況になりました。
既存顧客に対する融資であっても、以前はフルローンでも構わないと打診されていた案件について、頭金を1~2割要求されたというケースも散見されました。
むしろ、個人向け不動産融資が正常の状態に戻ったという見方もできるでしょう。
不動産投資家向けの新規貸付が激減
スルガショック後の2018年の不動産向けの新規貸付額は、前年比5.7%減となりました。
これは、リーマンショック以来の大きな減少率です。特に個人投資家向けのアパートローンを中心とした新規貸付は16.4%減となり、調査を始めた2007年以降最大の減少幅と報道されました。
類似の事件に巻き込まれないための自己防衛策
以前は不動産向け融資というとアパート・マンションが中心でしたが、現在ではシェハウス、民泊、ガレージハウス、トランクルームなどさまざまな種類の不動産投資があります。
新しい形態の不動産投資が儲かると評判が上がるとすぐに飛びついてしまいそうですが、まずは自分で事業計画を検討してみましょう。類似の物件の入居率や建物の状況を現地調査してみることも有効です。
銀行が融資してくれるから、営業担当が保証したから大丈夫、ではなく、お金の流れと事業計画を融資担当者に説明できるまでに理解し、納得のうえで投資することが大切です。
このブログを書いた人
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